没入型エンターテインメントである「イマーシブ体験」は、新しいエンターテインメントとして注目されるようになってきました。2024年には東京都お台場にて世界初の没入型テーマパーク「イマーシブ・フォート東京」が誕生し、宿泊型のイマーシブシアターや脱出ゲームなども登場。新しい形のエンターテインメントとして認知されるようになってきています。
イマーシブ体験は、従来のようにお客様は受け身であり、見ることや聞くことに終始するのとは異なり、つくり込まれた世界にお客様自ら入り込んで体験するという意味で、テレビゲームに近い面もあります。 また、マーケティング業界においても、顧客体験を中心にすえるイマーシブな手法を取り入れる企業が増えています。
今回は、イマーシブ体験について取り上げ、具体的にどのようなものなのかを解説し、イマーシブ体験が注目されている背景、具体的なメリット、最新の実施手法、成功事例を紹介します。
イマーシブ体験とは?

イマーシブ体験は、日本語では没入型体験ともいわれています。お客様が没入して楽しめるさまざまな仕掛けがつくられており、たとえば、従来の演劇ではお客様が座席に座り、舞台の役者を見て楽しむものでしたが、イマーシブ演劇では、お客様自身が演劇の世界の登場人物となります。そうすることで、没入感を高め、より立体的な体験を可能とします。
イマーシブ体験は、現在では演劇だけではなく、以下のように大きくわけて3種類があります。
- 演劇的手法
- 空間演出手法
- テクノロジー手法
一つずつ解説します。
演劇的手法
テーマパークや劇場や宿泊施設など、キャストやスタッフや演者との対話や演劇的な演出によって、顧客を物語の世界に引き込む手法です。顧客自身がその世界の住人として体験することによって、ただ見るだけでは得られないインパクトを与えられます。学習や研修の際にも、知識を定着させるために有効な手段です。
空間演出手法
映像、音響、照明だけではなく、場合によっては香り、温度、振動、風などを組み合わせて、あたかもその場が別世界になったように演出する方法です。施設や技術が必要であるため、大きなコストがかかります。
また、特定のアニメや人気のキャラクターをコンセプトとして内装デザインをつくり、ファンを呼び込む方法もあります。どちらにしても、演劇的手法とは異なり、キャストを介すことなく、体験を提供できます。
テクノロジー手法
イマーシブ体験においては、多くの場合、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)などが活用されていることが少なくありません。VR(仮想現実)の場合は、場所を選ばず、現実にはない仮想現実の世界を楽しむことが可能です。
空間演出で多く用いられるのが、プロジェクションマッピングです。壁や床に映像を投影して、別世界にいるように感じさせたり、アートや物語の世界観を表現したりします。
さらに、イマーシブ体験にはさまざまな形態があり、下記のように、多くのサービスが展開しています。
| デジタルアート施設 | 体感型デジタルアート。「チームラボ」が有名。壁や床が映像と連動して、自分の動きでアートが変化する施設。音響の仕掛けもある。 |
| イマーシブ演劇 | 場合によっては客席を置かず、観客が演者と同じ空間を自由に歩き回り、物語を一緒に目撃して体験する形の演劇。日本では「イマーシブ・フォート東京」、泊まれる演劇などがあげられる。 |
| イマーシブシアター | ラスベガスの「The Sphere」は、巨大な高解像度LEDスクリーンによる映像や音による没入感だけではなく、香や風による五感を用いた演出も行っている。日本でも、4DXシアターがある。 |
| テーマパーク・アトラクション | 「ディズニーランド」などのテーマパークでは、建物やアトラクションにより、物理的に世界観を構築し、最新技術を組み合わせて没入体験を提供している。また、キャラクターを演じるキャストとの交流により、お客様自身がその世界に入り込んだような感覚を覚える仕掛けをしている。 |
| テーマエリア | ユニバーサル・スタジオの「ハリー・ポッター」やディズニーの「スター・ウォーズ」エリアのように、テーマパークの一部のエリアで特に物語の世界を再現し、その世界に入り込んだような仕掛けをしている。 |
| VR(仮想現実)ゲーム | 日本語では仮想現実といわれているVR。Meta QuestやApple Vision Proなど最新のデバイスを通じて、仮想世界と現実世界が融合したデジタル体験を提供している。 |
| AR(拡張現実)ゲーム | 日本語では拡張現実といわれているAR。スマートフォンやタブレットを使って、「ポケモンGO」のように、現実世界にデジタル情報を重ね合わせて、ゲーム世界に入り込む体験を提供している。 |
| メタバース(仮想空間) | 日本語では、仮想現実のことを指します。インターネット上の自分のアバターを通じて、仮想空間内で他のユーザーと交流したり、イベントを楽しんだり、経済活動をしたり、もう一つの世界を提供している。 |
| イマーシブダイニング | イマーシブシアターやイマーシブアートから派生したイマーシブダイニング。映像や音響だけではなく、香り、室温の変化、光食器など、さまざまな演出を組み合わせています。料理に関するストーリーを披露するなど、演劇的要素もある。 |
| コンセプトホテル | キャラクターグッズを置くなど、特定のアニメや映画の世界観を再現した客室での宿泊体験。 |
| 教育・ビジネス | 体験を主としたシミュレーションを通じて、研修内容や学習に関する深い理解やスキル習得を促す。 |
| VR安全トレーニング | VRを使うことで、建設現場や医療現場など、危険な状況を仮想空間でリアルに再現して、万が一の学びにつなげる。 |
| VRバーチャル内見 | VR技術を用いて、オンライン上で物件を内見できる。遠方にいる顧客にもすぐに物件をアピールできる。 |
| VR没入型歴史学習 | 遺跡や歴史的建造物、歴史的場面などをVRなどで再現し、より深い学習につなげる。 |
イマーシブ体験は、参加者の五感を多面的に刺激することが特徴です。そのため、参加者は自分自身がその出来事を体験したように感じられます。そのため、強いインパクトがあるだけではなく、教育分野においては、学んだことを自分のことと受け止められ、得られた情報への理解度も高くなり、より深い学びにつながります。
イマーシブ体験が注目される背景

現在では、前記した通り、多種多様なイマーシブ体験が提供されています。イマーシブ体験が幅広い分野に普及し、注目を集めているのには、以下のような背景があります。
- 若者のトキ消費重視の消費行動の変化
- 高精細な映像表現を可能にするXRの進化
- 情報過多による体験価値の向上
- SNS投稿との親和性の高さ
若者のトキ消費重視の消費行動の変化
商品やサービスを所有するモノ消費や、旅行やイベントなどの体験にお金を払うコト消費がありますが、現代の若者はその時、その場所で、自分だけが体験できるトキ消費を重視しているといわれています。希少価値の高いイマーシブ体験は若者の興味を惹くエンターテインメントの一つといえます。
高精細な映像表現を可能にするXRの進化
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)といったXR技術が急速に進化し、立体的で高精細な映像表現が可能になりました。ゲームだけではなく、一般企業の展示会や店舗、教育現場にもこれらは導入されています。
情報過多による体験価値の向上
インターネットを通じてあらゆる情報に瞬時にアクセスできるようになった結果、知識として知っているだけではなく、トキ消費であるその場にいって、そのときに、身体を使って楽しむ体験の価値が高まっているといわれています。企業にとっても、競合他社との差別化を図るための有力な手段としてイマーシブ体験が選ばれています。
SNS投稿との親和性の高さ
かつての展示や演劇や映画、イベントは、完成された作品を一方的に鑑賞するスタイルが主流でした。しかし、現代のイマーシブ体験は、その空間に入り込んで、一体化できます。また、サービスによってはその様子をスマートフォンで写真に撮ってSNSにアップすることも可能です。
そのため、自社で宣伝しなくても、イマーシブ体験にはSNSによる拡散力があり、結果的に注目を集めることになります。
イマーシブ体験が企業にもたらすメリット

イマーシブ体験を導入することは、企業にとって具体的にどのような影響があるのでしょうか。その場限りの話題づくりに留まらず、以下のようにビジネスにとって大きなメリットとなることが多数あります
- 顧客に自分のことのように感じさせ、企業のブランドへの好感度を高める
- 社員研修や教育などに活用できる
- 希少価値の高い体験をユーザーに提供できる
- 体験者がリピーターをつくりやすい
一つずつ解説します。
顧客に自分のことのように感じさせ、企業のブランドへの好感度を高める
例えば、宣伝のチラシ、テレビCM、インターネットの広告などは、知識として顧客の頭の中に入っても、よほどそれが興味を惹くような内容でなければ、自分のこととして受け止められずにスルーされてしまうことは少なくありませんでした。そのため、本当は顧客にとって必要なことであっても、届かないこともあったでしょう。
イマーシブ体験の没入感を利用すれば、顧客に対して一歩踏み込んだインパクトを与えることが可能です。VRで体験した映像なら印象に残るため、興味や愛着を感じやすくなると考えられます。また、その場に行って体験する場合なら、そこに価値を感じ、リピーターになる人も少なくないでしょう。顧客に忘れられない印象を与えるツールとして、他社との差別化を図るために、適切なイマーシブ体験を提供することはメリットがあります。
社員研修や研修などに活用できる
社員に身につけてもらいたい知識や技術をどのように伝え、学習してもらうかは企業にとって課題の一つです。マニュアルを作成して読んでもらうだけでは抜け落ちたり、忘れてしまったりということもあるでしょう。人間が直接伝えた場合でも、伝える人の技術にもよるため、相手にしっかりと頭にいれてもらうことは至難の業です。
例えば、現場の従業員に対して、VRを使った研修を行えば、ただの研修ではなく、リアルな体験として内容を定着させることができます。そのため、いざその時になった場合、スムーズに動けるでしょう。アメリカのウォールマートでは、買い物客が押し寄せるブラックフライデーにそなえて、VRで事前に研修を行い、成功しています。
その他にも、入社前の学生にインターンシップで仮のプロジェクトを体験させるといった体験型の研修を行っている企業もあります。
希少価値の高い体験をユーザーに提供できる
物やサービスが溢れる現代では、物やサービスの価値が低いとされることもあります。そんな中で、イマーシブ体験がもたらす、その場所でしか味わえない体験は希少価値が高いと考えられています。
インターネットの発達により、自宅でさまざまなエンターテインメントが楽しめる中、わざわざ足を運ぶハードルは高くなっています。そのため、希少価値の高いイマーシブ体験は、観光地や施設にお客様を呼び込むきっかけになることもあるでしょう。
また、イマーシブ体験は、見た目の面白さや華やかさから、SNSへの発信にも適しています。お客様がSNSで体験を発信することによって、新たな集客につながりやすい点もメリットといえるでしょう。
体験者がリピーターになりやすい
イマーシブ体験は、インパクトがあるため、楽しい印象的な思い出として心に残りやすいです。そのため、多くの体験者が「またいきたい、今度は友だちを連れて行こう」という気持ちになることも少なくありません。
また、その場で体験した感動や驚きは、体験者にとって唯一無二だと感じられます。そのため、体験者はリピーターになるだけではなく、SNSや口コミで発信者となり、新たな顧客の獲得にも貢献してくれることもあります。
イマーシブ体験の場合、リピーターになってもらうために、定期的に過去の体験者へのフォローアップも行うべきでしょう。
イマーシブ体験の代表的な事例

企業が行った代表的なイマーシブ体験の事例は、以下の通りです。
- イマーシブ・フォート東京
- チームラボ
- 従業員研修(ウォルマート)
- 技能伝承のDX(日本航空)
一つずつ解説します。
イマーシブ・フォート東京(※2026年2月28日まで)
2024年に開業したイマーシブ・フォート東京は、演劇体験を提供する施設です。従来の演劇鑑賞とは異なり、演劇の世界に入り込み、当事者となって楽しめる仕掛けがあります。例えば、シャーロック・ホームズの世界に入り込み、来場者が自ら容疑者を推理して、証拠を探すなど、日常では味わえない体験ができます。
チームラボ
チームラボは、体験型のデジタルアートを提供する施設です。従来のアートの展示では、額縁に入った絵や置いてある彫刻を見るだけでしたが、チームラボではプロジェクションマッピングを活用して、鑑賞者が絵の世界に入り込み、アートと一体になって楽しめます。センサー技術を駆使して「鑑賞者の存在によってアートが変化する」ことも大きな特徴です。鑑賞者の動きによって、映像が変化することも他にはない特別な体験として人気を集めています。
従業員研修(ウォルマート)
全米の店舗の研修にVRを導入し、セール日の混雑状況やトラブル対応を疑似体験しました。ブラックフライデーの際に押し寄せる買い物客による現場でのパニックを未然に防ぎ、接客スキルの向上を実現しました。また、VRで体験したことは従業員の自信向上につながり、離職率の低下という成果もあったそうです。
技能伝承(日本航空)
整備士の訓練にVRを導入し、実機では再現不可能なエンジンの内部構造の確認や、高所作業のリスクを安全な環境で体感させています。この体験により、ベテランの知見を若手に効率よく引き継ぐ体制を構築しています。
イマーシブ体験導入時の注意点

イマーシブ体験を導入する際に、注意すべき点は以下の通りです。
安全管理を徹底する
自由に歩き回る形式では、衝突や転倒のリスクがあるため、動線設計に工夫が必要です。
VR酔い対策
VRを使用する場合は、平衡感覚のズレにより、気分が悪くなることもあります。高フレームレートの維持や、適切な休憩が必要です。
費用対効果
イマーシブ体験の導入時は初期投資が大きくなりがちです。そのため、費用対効果を検討したうえで導入しましょう。
まとめ

イマーシブ体験によって、今まで以上に豊かな体験が可能となり、伝えるべき情報への理解も深まります。情報過多の時代において、単に知ってもらうというだけでは不十分なことも少なくありません。いかにしてユーザーに体験してもらうかが、ビジネスや教育において他社との差別化につながるでしょう。
イマーシブ体験には、すでにさまざまな手法がありますが、まだ新しい分野です。新たな市場開拓としても注目すべきものといえます。

