人材採用が課題になる中、求人サイトやエージェントなど、他社のサービスにゆだねるだけではなく、自社で独自に広報活動を行う採用広報を置く企業が増えています。自社で発信することで、生の現場の声を届け、実際の働き方を伝えられます。実際に採用広報によって、エントリー数が増えて、自社に適した長期的に定着してくれる人材が採用できる企業も少なくないようです。
今回は、採用広報がどのようなものなのか解説し、採用広報のミッションやメリット、具体的な手法、採用広報の成功例を紹介します。
採用広報とは?

採用広報とは文字通り、企業が人材採用のために、企業自体が行う広報活動のことを指しています。募集しているポジションの概要や条件などを発信するだけではなく、自社で働くメリットや職場環境、企業文化のアピール、イベント情報など、転職希望者が興味を持つような内容を発信しています。
発信の方法も一般的なコーポレートサイトだけではなく、独自の採用のためのメディアやSNSの運用、イベントの開催など、さまざまな手法があります。
採用広報の活動により、広く求職者に自社に対して関心を持ってもらい、求人情報に応募してもらい、最終的にはスムーズに入社してもらうことがミッションです。企業の認知度を向上させるマーケティング的な視点だけではなく、より自社の文化に合った長く活躍してくれる人材の獲得につなげることも大切です。
採用広報の業務内容
採用広報は、広報担当者だけではなく、人事担当者も一緒に業務を行うことになります。それは、広報担当者が発信のプロであっても、転職希望者にはどのようなニーズがあるのか、自社ではどのような人材を望んでいるのか、社内の人事制度はどのようなものなのか、広報担当者は知らないことがあります。人事担当者が知見を共有することで、より的確で有意義な発信が可能となります。
また、広報担当者と人事担当者だけではなく、現場の社員の声も取り上げて、より正しい情報を伝えることも大切です。現場の事実と採用広報の発信に乖離がないようにします。
これまで採用のための情報発信を企業自ら行うことはなく、外部が主催する採用イベントや説明会という形をとるのが一般的でした。しかし、人材不足が加速し、デジタル化という背景もあり、採用広報という形で企業自身がさまざまな形で自社にとって良い人材を広く呼び込むための活動をしています。
採用ブランディングとの違い
採用広報という言葉と似た言葉として、採用ブランディングという言葉もあります。採用広報の目的は、具体的に募集に対して応募を増やし、採用の際のミスマッチを防ぐことにあります。一方、採用ブランディングのミッションは、求人を出している企業としてのブランド価値を高めて、自社に注目する人を増やすことにあります。
採用ブランディングという視点は、採用広報では大事です。採用広報活動によって、より自社に求職者が集まる下地を作る活動といえます。
採用広報の2つのミッション

採用広報のミッションとして最も大切なのは、以下の2点です。
- エントリーの拡大
- ミスマッチを防ぐ
一つずつ解説します。
エントリーの拡大
昨今では、労働人口は減少の傾向にあり、人手不足は極めて深刻な状態です。そのため、より優秀な人材を集めるためには、企業としては待ちの姿勢でいるわけにはいきません。できるだけ多くの求職者にアピールし、多くのエントリーを集めるために、企業自ら積極的に発信するのが採用広報です。
現在求職中の人たちだけではなく、企業のファンを増やしていくことで、潜在的な求職者にアピールし、将来的な採用にもつなげます。
ミスマッチを防ぐ
せっかく採用しても、定着せず、短期間でやめてしまう人が増えると採用コストがかかり、社内で戦力となる社員が増えず、最終的には売り上げにはつながらないでしょう。大切なのは、企業にとって良い人材というだけではなく、その企業で長期間活躍できる業務内容だけではなく、企業文化に合った人材です。
そのため、採用広報では、求職者が応募したくなるような企業のイメージアップにつながるような情報だけではなく、実際の職場環境やどのような働き方ができるかといった正直な内容を発信することも大切です。そのことにより、最終的には、企業の利益につながります。
採用広報のメリット

採用広報の部署を設けたり、採用広報に人員を配置したりすれば、それだけコストがかかります。しかし、それでも現在、多くの企業が採用広報を実施しています。それには、以下のような明確なメリットがあるからです。
- 企業の認知度がアップする
- 内定辞退率や早期退職を減少させる
- 企業のイメージアップにつながる
一つずつ解説します。
企業の認知度がアップする
元々著名な企業なら問題ありませんが、特にスタートアップなど、求職者が未知の企業に対して、不安を覚えるものです。「果たして長く働ける職場なのだろうか」「そもそもどのようなサービスや商品を扱っている職場なのだろうか」と、知名度が低いからこそ、さまざまな疑問が湧きます。特に一般のお客様向けではなく、企業向けの商品やサービスを扱っている場合、どのような会社なのかわからないため、仕事のイメージも湧きにくいでしょう。
そうした場合、採用広報の効果は特に大きく、具体的に現場からの情報を伝えることで、安心感にもつながり、「今までこの企業のことは知らなかったけど、応募してみよう」という気持ちにつながるでしょう。
大企業や商品やサービスがよく知られている企業であっても、採用広報によって成功がさらにアップデートされることで、より身近に感じられて、応募数のさらなる増加につながります。
内定辞退率や早期退職を減少させる
特に新卒採用で悩みとなるのは、内定を出した学生に内定辞退されることです。内定辞退の率が高くなると、必要なときに、必要な人材確保が難しくなり、将来のために人材を育てていくことも難しくなるでしょう。また、早期退職防止についても採用広報は大きな役割を果たします。たとえば、採用広報の発信によって企業の文化や方針に共感して入社した人材であれば、実際に働いて不満な点があった場合でも、すぐには離職しにくくなるでしょう。
企業のイメージアップにつながる
昨今では、インターネットでさまざまな情報が得られます。求職者も応募する企業について情報を集めているので、他の企業と比べてより魅力だと思ってもらう必要もあるでしょう。
採用広報の発信により、求職者にとってより魅力的な職場であるというイメージを持ってもらえるようになります。具体的な仕事内容はもちろん、仕事の中で得られるスキル、魅力的な福利厚生など、具体的に働くイメージが持てるようにアピールするのがポイントです。
採用広報の代表的な手法

採用広報の手法として、人材紹介のサービスや認知を広げることができる「ペイドメディア」、消費者やメディアなどが第三者の視点で客観的な意見や情報を発信する「アーンドメディア」、企業自身が発信する「オウンドメディア」の3つがあります。多くの採用広報は、さまざまな手法をミックスさせながら、情報を発信しています。
| ペイドメディア | 広告、イベント、ラジオ、新聞 |
| アーンドメディア | SNS、口コミサイト、マスメディア、インフルエンサー |
| オウンドメディア | コーポレートサイト、自社のブログ、自社のウェブサイト、自社のソーシャルメディア、メールマガジン、自社の動画コンテンツ |
採用広報が使うのは、主に6つの手法です。
- コーポレートサイト
- 広告
- イベントの開催、参加
- 自社の採用サイト(採用オウンドメディア)
- SNS運用
- 動画コンテンツ
一つずつ解説します。
コーポレートサイト
コーポレートサイトとは、自社の公式ホームページのことを指します。会社概要、会社の歴史、社長挨拶、事業やサービス紹介、プレスリリース、IR情報、お知らせなど、自社に関する基本的な情報が掲載されています。コーポレートサイトは企業の顔ともいえる、重要な役割を果たしています。
顧客へのお知らせ、営業ツールとしても欠かせないコーポレートサイトですが、採用活動の窓口としても昨今では使われ、採用情報が強化されていく傾向があります。コーポレートサイト自体に採用広報による社員紹介や職種紹介といった記事の掲載もみられます。
広告
採用に関する広告は、企業が展開する求人サイトやハローワークなど、さまざまです。求人サイトは、ある一定の職種に特化したもの、ハイクラス求人向け、女性向け、派遣社員向けなどがあります。採用した人材の職種やポジションによってふさわしいものを選ぶのがポイントです。費用が高額になることもあります。
イベントの開催、参加
就職活動している人や潜在的な求職者と出会うために、情報を発信したり、コミュニケーションをとったりできるイベントを開催、参加します。たとえば、IT企業のエンジニアの求人の場合は、IT技術についてのイベントに参加して登壇したり、ブースを設けて技術を紹介したりして、エンジニアの興味を惹くようにします。
自社の採用サイト(採用オウンドメディア)
コーポレートサイトとは別に、自社の採用サイト(採用オウンドメディア)を運用して、発信します。採用オウンドメディアでは、自社の社員を取り上げて、職場の魅力や仕事内容、やりがいや得られるスキルについてなど、現場の声をインタビュー記事として発信します。社内で行われているイベントや福利厚生の情報なども、採用オウンドメディアの中ではよく読まれる記事の一つです。また、採用に直接的につなげるために、採用オウンドメディアに求人情報に応募できるリンクやフォームを用意するとよいでしょう。
採用オウンドメディアは、今すぐ採用につなげるというよりは、中期的な成果を見込んでいます。
SNS運用
X(Twitter)、Instagram、Facebookなど、多くの人が使っているSNSを利用して採用広報を行います。SNSはフォロワーの数にもよりますが、拡散力が高く、今まで自社のことを知らなかった人にも情報が届き、認知度をさらに高める可能性があります。他のメディアよりも、すぐに情報を発信できるため、場合によっては即効性があります。文章だけではなく、写真や動画を付けることで、多くの人の目に留まりやすくなります。ただし、定期的に発信して認知してもらう必要もあり、アカウント自体を育てるにはコツがいります。
動画コンテンツ
文章や静止画以上に、さまざまな情報を一気に求職者に伝えることができるのが、動画コンテンツです。社内の様子、社員のインタビュー、ある社員の一日、社内イベントの動画など、さまざまな情報を発信できます。YouTubeやTikTokなどの動画プラットフォームは若者に人気があるため、若手社員を採用したい場合に適しています。
採用広報成功事例

実際に採用広報活動によって、企業のイメージアップを図り、エントリーの増加やミスマッチ予防に成功した企業も少なくありません。採用広報の成功事例を紹介します。
サイボウズ株式会社
サイボウズ株式会社では、「サイボウズ式」という読み物としても面白いコラムや取材記事が多数掲載された採用オウンドメディアやYouTubeチャンネルなど、積極的に採用広報を実施しています。思わずクリックしたくなるような魅力的なメディアであることが大きな強みで、サイボウズ株式会社の企業ブランドを高めることにも貢献しています。
ユニ・チャーム株式会社
ユニ・チャーム株式会社では、マイページ登録者に向けて、就職活動に関するヒントとなるコンテンツの配信を定期的に行っています。ただ自社についての情報を一方的に配信するだけではなく、読む側の立場に立って「役に立つから、次回も見てみよう」と思うような情報発信を心がけているそうです。このコンテンツの配信はユニ・チャーム株式会社のファンを増やすことにも貢献しており、エントリー者の流出を予防しています。
株式会社メルカリ
株式会社メルカリでは、採用オウンドメディア「メルカン」を運営しています。社外向けに作られた写真層ではなく、社員自身の素を出すことをコンセプトにしており、社歴、年齢、ポジションに関わりなく、多様なメンバーのインタビュー記事が掲載されており、実際に働くイメージが持てるようになっています。また、SNSでの発信、現役社員と会って話をするミートアップなどを行い、入社後のミスマッチを防げる仕組みが作られています。
freee株式会社
freee株式会社の採用サイトでは、新卒入社、中途入社、さまざまなポジションの社員の等身大のインタビュー記事が掲載されています。育休、時短勤務など、働き方についての内容も多いため、自分に合った働き方ができるかを確認できるのも大きな魅力といえるでしょう。正社員だけではなく、アルバイトの募集もしています。
株式会社ディー・エヌ・エー
株式会社ディー・エヌ・エーのオウンドメディア「フルスイング」では、社員インタビューや人事制度、カルチャー、職場環境などの発信を通じて、新入社員のミスマッチを防ぐことを重要視しています。それは、以前はミスマッチが多く発生していたためで、現在はミスマッチによる早期離職は減ったそうです。
また、地道な宣伝によって現在の「フルスイング」の認知度は高く、入社した人のほぼ全員が「フルスイング」の存在を知っています。
ナイル株式会社
ナイル株式会社では、採用オウンドメディア「NYLE ARROWS」を運営しています。コンテンツ制作をしている会社であるため、探したい情報をすぐに見つけられるようになっているのが大きなポイントで、写真やサイトの見た目にもこっています。仕事内容についてのページも画像を駆使して、具体的で分かりやすい情報発信を行っています。
まとめ

採用広報の役割は、ただエントリーの拡大につなげるだけではありません。企業の認知度やイメージアップをしながらも、実際に仕事をしている社員の生の声を発信し、自社によりマッチする求職者に正しい情報を届けることが大切といえます。また、企業によっては、「我が社はこんなに素晴らしい」というアピールだけではなく、コンテンツとして求職者を楽しませたり、役に立ったりすることで、ファンを増やしたり、好感をもってもらったりするように努めています。
採用広報は、独自の工夫やアイデアが必要であり、商品やサービスを作るのと同じく、非常にクリエイティブな仕事といえます。どうすれば自社の魅力を伝えながら、自社の内情を正しく知ってもらうか、その両立が大きな鍵といえそうです。

